高橋たか子/誘惑者


表立って言葉にすることはないけれど、何となくいつも薄らと抱え込んでいる気持ちと合致した映画や小説に出会うと嬉しくなりませんか?

そんな出会いを見つけるのが楽しくて最近読書にハマっています。


もちろん全ての本が面白いものばかりではなく、読まなくてよかったなと思うものも沢山あるけれど、


読んだ後に中身を忘れてしまったとしても、必ず何かが自分の中に残っているもの。それは言葉の言い回しだったり、登場人物への共感だったり。それらは気づかないうちに読んだ人の栄養になっていると思います。

(aruku「読書のすすめ」より)


という言葉を反芻します。



そんな中で久しぶりにヒットした小説が高橋たか子の誘惑者


わたしは死にたいと思ったことはなくて、何か嫌なことがあれば迷わず逃げるしこの先の人生に見通しが立っていなくても死ぬほどのことはない。

だからこの小説のテーマとは合致しないんだろうけれど、終始淡々と冷たく静かで、一切の本音と建前を捨てたような語り口は心地良かった。


希望や答えを導き出すことはしない、葛藤や悩みに寄り添うことも、死を救いだと定義して誘導することもない。ただ周りのことには無関心で死の構造が知りたい。それだけで死にゆく友人に同行し、山火口に佇む自殺幇助者の主人公に不思議と惹かれて引き込まれる。



表立って人に紹介はできないけど誰かには読んでもらいたい。読後の感覚を共有したいと思う小説でした。


個人的には澁澤龍彦になんともいえぬときめきを感じたよ。